ユキヒト
3.30 5:00 AM 新宿歌舞伎町
ユキヒトの背中に揺られ街を闊歩している
整髪料と香水とアルコールの
混ざった匂いが心地良い。
築50年の既存不適格建造物の1部屋、
お風呂もない畳4枚の部屋で私は眠りにつく。
3.30 3:00 PM新宿区若松町
外から聞こえる小学生の声で目を覚ます。
男の子かな。
最悪な口内環境で憂鬱な気分だ。
一人きりの室内に西日が差し込む。
着替えと財布を持って私は近くの銭湯へ向かった。
3.30 4:00 PM
「今日はお仕事お休みかい?」
お肉屋さんのおばちゃんがニコニコしてる。
少しお話したらコロッケくれた。
こういう地域の人の温かみって本当にありがたい。
銭湯上がりの帰路、コロッケを食べながら家に向かうと、自宅の前に黒塗りのバンが止まっていた。多分お父さんの借金取りの人。
私は引き返して公園のトイレに身を潜める。
コロッケの包み紙を握りしめていると、非通知から着信。当然、無視...はしない。
「はい!アンナです!」
「xxファイナンスなんだけど、お父さんまた返済日にお金返してくれなかったのよ。いつもいつも申し訳ないんだけどさ、返済金に遅滞した違約金と遅滞分の利息を含んで18万7254円、現金で事務所まで持ってきてくれないかな。今留守みたいだし頼むよ。」
対面だと何されるか分からないから、いつも電話で話すようにしてる。あぁ...なぜ父はこんな怖いところからお金を借りるのだろう。毎回私が一括で返してしまっているが...。モヤモヤしながら私は通帳を隠しているコインロッカーへ向かう。
3.30 5:30 PM 新宿区 xxファイナンス
お金を返しにいくと、そこにはユキヒトがいた。
ちょうど良かったといってユキヒトは私に保証人になってくれと言い出した。
「あんた、どうすんの?ユキヒトさんの保証人になってくれんの?」
ユキヒトはこの人達から遊ぶお金をちょくちょく借りていた。この人達からアパレルショップ開業のお誘いを受けて追加融資を受けることになったみたい。
保証人が必要になったのだが、両親は既に他界している為、私に頼ってきたとのこと。
「いくら必要なの?」
「...1000万」
私は保証人を断った。
そして私は自分で貯めてきたお金をユキヒトに渡した。2年間死ぬ気で働いて貯めたお金だった。
3.30 7:00 PM 新宿歌舞伎町
私はお店に着くと衣装に着替える。
本当なら今日で辞めるつもりだったのに...。
店長に、退職は取り消しにして欲しいと伝えると
とっても喜ばれた。
私は普通の生活に戻りたいだけなのに
なんでこうなっちゃうんだろう。なんか気持ち悪い。
3.30 8:00 PM 新宿歌舞伎町
急に息が詰まり、心臓が暴れだした。
景色がグルグルと廻り、真っ暗になった。
??? 夢の中
「娘がまた保証人になりますので、お金を融資して頂けませんか?」
「アンナはいい金ズルだったけど、借金返したら上がるってきいて、金を全部回収してきたわ」
「あんな女よりお前の方が好きに決まってんだろ?あんま嫉妬すんなよ」
事実無根の被害妄想で頭が掻き乱される。
皆が、私を騙しているんじゃないかって
とってもとっても不安なんだ。
3.31 9:00 PM 某病院
「ユキヒト....。」
真っ暗な病室で目を覚ますと、私は泣いていた。
シンと静まり返った病室に一人
私は点滴が繋がれた状態で寝ていた。
ベッド横の椅子に置かれた私のカバンに
携帯と財布が入っていた。
店長やお店の子から心配のLINEが沢山。
それだけだった。
「何なんだろうな。私って。」
別に嘘でも良かった。
借金なんて利息さえ払っていれば生きていられる。お父さんが死んだら保険金の受取人は私だ。
別に大丈夫。大丈夫。大丈夫...。
そんな風に考えてたら涙が出てきた。
いつもトークは貴方の既読で終わってる。
何でもいいからなにか送ってよ。って思った。
ナースコールを押して御手洗の場所を聞く。
「そういえば、さっきユキヒトさんって方がきて、貴女のことを聞かれたよ。こんな時間だから、面会は断ったんだけど。コインロッカーの鍵?を貴方に返したいって。」
なんなんだ、あの男は。せめてLINEくらい入れろ。
本当に。馬鹿。
Anna