おとぶろぐ

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Nuclear

 

 

財力に優れた人間は、宙へ消えた。

高額な税金を納めていた...いわゆるお金持ちの人間たち。彼らだけを乗せた巨大宇宙船が飛んで行った。

 

 

 

ここは死んだ星にある、とある死んだ街。

鳥、虫、魚、木、花、大地、水、空の全てが死んだ世界だ。

 

そんな荒廃した地で、僕は不安定な電気信号により生命活動を維持している。今朝見つけた一粒の花の種のようなものを地面に植え、産業廃棄物の積み重なった川を流れる油の浮いた水を掬っては、種を植えた砂の地面にかけていた。

 

今日で20歳になる僕は、幼い頃からから落ちこぼれだった。家庭は貧しく、勉学も出来ず、運動も出来ず、容姿も悪いので、友達も出来たことがなく、暗く寂しい日々を過ごしてきた。

 

15歳の誕生日、収める税額や学力が基準値に満たなかったため、国の法律により、電子メモリーに脳の情報を移転する機械化手術を受けた。両親とおなじく最低ランクの量産型マシーンとなった。

 

睡眠が不要となり週5日24時間労働の毎日が始まった。勿論体は機械なので、どこか壊れればパーツを取り替えるだけですぐ治る。その分給与が減るのだが。

 

仕事では、仲間達と大きな夢のような乗り物を開発していた。宇宙での暮らしを可能とする巨大宇宙船だ。これに乗れば宇宙で生活を送れるようになる他、様々な星への着陸、移住もできる可能性のある乗り物だ。僕らは誇りを持って働いていた。

 

休日の2日は、城門の隅に咲く花の水やりに勤しんだ。綺麗な花が好きだったのもあるが、水やりに通う理由はもうひとつあった。

 

王様の一人娘であるお姫様と、こっそり会う時間が楽しみだった。

 

お姫様は優しい心を持つ素晴らしいお方だった。絵本に出てくるようなお姫様の気品はないが、草木や周りの生き物全てを愛する、愛情に溢れた女性だった。僕はそんな彼女のことが心の底から好きだった。

 

彼女の掌の温もりは、熱センサーによる感知で記録した。僕の大切なメモリーだ。

 

19歳の時、核兵器による世界戦争が勃発し、世界中が放射能による汚染を受けた。僕とお姫様がお話をしていた時に、お姫様の背後で爆弾が炸裂した。

 

目の前で、お姫様の体が弾けた。

 

涙はプログラミングされていなかったが、人間の死は瞬時に理解した。

 

お姫様の心臓を拾い上げ、自身の右胸のスペースに閉まった。そして必死で逃げた。

 

隠れた。

 

生きた。

 

 

40日間核戦争は続いた。

 

 

各国の主要首都は破壊され、78%の人間(体はロボットの人がほとんど)が死んだ。

死体である動かないロボットたちは、粗大ゴミとして国で処分することとなった。

 

政府は、暴動が起きぬよう全ての機械化した人々の身体に強制アップデートを実行した。暴動を目論んだ時点で身体が全く動かなくなり、政府による確認が入るまでフリーズしてしまうというものだ。

 

戦争に巻き込まれないために地下で生きようという小さな国、村も出てきた。

しかし、廃棄ガスが蔓延し廃油の埋設された地下空間では、エンジンオイルの補充ができず、廃油を取り込んだ末に壊れて死んでいった。

 

何とか生き残った僕たちは、宇宙船を完成させた。

 

完成したのもつかの間、所得格差を象徴する納税額ランキングが発表された。続けて、大臣からの発表で巨大宇宙船はこの国を捨て、新しい星へ移住する計画を公表した。

 

今日、数億円の乗車料金の巨大宇宙船が宙へ消えた。Newsで流れた国の最高責任者が放った一言は、「人は生きている限り明日は来る。宇宙へ来れない皆様は愛する星を見守り、共に最期をお待ち下さい。星を見守り最期を待て。」であった。

 

僕は核戦争により、片腕パーツを失った。またバッテリーが壊れた。

 

片方の腕を使い水を汲み、死んだ地面に埋めた種に水をあげ続けた。いつか緑が芽吹くと信じて。

 

ふと、空を見ながら広場へ足を伸ばした。

その瞬間、地面が爆発し体が吹き飛んだ。

 

そして産業廃棄物やロボットの廃棄をされているゴミ山に吹き飛ばされた。

 

ゴミにまみれた僕の目には、過去の記録に基づく様々なデータがフラッシュバックした。

 

視覚記録にのみ、君の笑顔が残っていた。

 

体が機械の僕に、優しい人だと声を掛けてくれた

あなたを心から愛していた事を再認識した。

 

そうして胸の電子音が止まった。

 

右の胸の君の心臓は、冷たく、温かかった。

 

そしてBudへ

 

https://youtu.be/HpFhR9DwxbY

 

おわり